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スペインサッカーリーグ LaLiga は、なぜ競技データをファンに公開するのか: スポーツにおけるデータ活用 ①

2024-06-07
大道 元貴
大道 元貴
セールスデベロッパー

デバイスの進化と競技データの応用可能性

スポーツの世界は、テクノロジーによる変革の真っ只中にあります。

その中でも特に注目すべきトピックの一つは、競技データの活用可能性です。

プロスポーツにおいては、より高いパフォーマンスを求めてテクノロジーの活用が進んだ結果、競技のためのデータ取得デバイスが飛躍的に進化しました。これにより、スポーツ業界はこれまでにない大量の競技データを取得することができるようになりました。そして今日では、この取得した大量データを競技以外の分野へ、例えばファンエンゲージメントを高めるためや、経営陣へ対して補強人選の意思決定を支援するために活用しようという流れがあります。

ここで重要なのは、テクノロジーがスポーツの現場だけでなく、ビジネスの側面でも革命を起こしているという点です。試合の分析や選手のパフォーマンスデータを基にしたコンテンツは、ファンの興味を引き続けます。そして、経営陣にとっては、データを活用することでより効果的な戦略を立てることが可能になるのです。

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今回はその具体例として、スペインのプロサッカーリーグである LaLiga の事例を見ていきます。

「試合のない 5 日間」の重要性

サッカーというスポーツはインテンシティが高く、健全なリーグの運営のためには、週 1-2 試合の開催が限度です。そのため、LaLiga は、試合以外の時間でもファンを魅了したいと考えています。具体的には、Web 上やオンラインの接点を活用し、データを用いて新たなコンテンツを提供することで、ファンとの繋がりを深めています。

データを活用することで、単なる映像コンテンツにとどまらず、さまざまな形式の新しいコンテンツを作成できます。これにより、試合映像だけでは満足できないファン層にもアプローチできます。例えば、試合の分析データや選手のパフォーマンス統計など、データに基づいた多様なコンテンツを提供することで、ファンの興味を引き続けます。

試合が開催されていない 5 日間は、ファンが試合に関心を持ち続け、次の試合を楽しみにするための重要な準備期間です。この間に、ファンがオンラインで時間を過ごし、LaLiga に対する関心を高めることが狙いです。

では、なぜ LaLiga は試合以外の時間でもファンを魅了したいと考えているのでしょうか。

LaLiga の収入は、主に放映権収入、スポンサー収入、入場料収入で成り立っています。これらは全て、ファンからの人気に紐付いています。つまりファンからの人気が収入に対して大きな影響を与えるためファンを魅了し続ける必要があるのです。

ビッグデータを活用したデータポータル:Beyond Stats

LaLiga と Microsoft は、ビッグデータを活用し、新たなファン体験を提供するファン向けデータポータルである Beyound Stats を立ち上げました。

各スタジアムに最大 19 台設置されている光学追跡用の高解像度の固定周囲カメラによって、試合ごとにリアルタイムでデータが生成されます。このカメラは、ボール、選手、審判の位置を追跡し、1 秒あたり 25 回という驚異的な速度でその位置を非常に正確に記録し、1 試合あたり 350 万件以上のデータを生成します。この生み出された大量データを Microsoft Azure による人工知能と機械学習機能により分析し、結果を Beyound Stats に表示しています。

ファンは、毎節のレポート、個人のレポート、チームのレポートなど様々な角度からの詳細な情報をグラフィック付きで分かりやすく編集された動画やトラッキングデータをまとめたチャートと共にレポート化されたものを見ることができます。また、グラフィック付きの動画内には、例えば、この角度でシュートが入る確率のデータを表示したりと、見ているファンにとっては大変興味深く、データが可視化され分かりやすい内容となっています。

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https://www.laliga.com/en-GB/beyondstats より引用

Microsoft との協業

Microsoft の記事によると、Azure が備える多様なクラウドソリューションのポートフォリオが、リーグ全体のデジタルトランスフォーメーションを求める LaLiga にフィットしており、単なるテクノロジーソリューションではなく、包括的な IT パートナーとなれるとしています。

Azure のクラウドソリューションは、データ管理、分析、セキュリティに至るまで幅広い機能を提供し、LaLiga のニーズに応えています。これにより、LaLiga は試合データの分析からファンエンゲージメントまで、あらゆる側面でデジタル化を進めることが可能となりました。

つまり、大量のデータが生み出されるスポーツ業界への進出は、テクノロジー企業にとって大きな魅力であることは間違いないのです。

AI に関する取り組み

LaLiga は、デジタル消費の傾向を分析し、最大の変化の 1 つはテキストベースのコミュニケーションから音声ベースのインタラクションと会話型 AI への移行であると考えています。そのような移行に適応し、ファンに対して、LaLiga に関する情報を見つけるためにアプリを操作するのではなく、人間が交流する最も簡単な自然な方法で情報にアクセスできる会話型 AI を備えたボットを開発しました。これは、全ての主要な音声チャネルにわたって一貫した高品質なファン体験を提供するように設計されており、質問を投げかけると選手の写真、基本的な統計データ、試合結果へのリンク、さらに詳しい情報を得るオプションが含まれており、熱心なファンだけでなくカジュアルなファンもターゲットとなる幅広い施策となります。

開発にあたっては、Azure Bot Service と Microsoft Bot Framework を使用して作成し、Azure Cognitive Service やその他の様々な Azure ツールが組み込まれています。

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https://ms-f1-sites-03-ea.azurewebsites.net/es-es/story/laliga-media-entertainment-azure より引用

Morph がスポーツのデータ活用に対して注目している理由

Morph は、渋谷から J リーグを目指すフットボールクラブ「SHIBUYA CITY FC」と、アスリートデータの活用を共同推進しています。

近年、ビジネスの分野だけでなく、スポーツの分野でもデータ活用がますますトレンドとなり、一般的な概念として浸透しています。アスリートデータを収集するデバイスの進化は目覚ましく、トラッキングシステムやバイオメカニクスセンサーの技術向上により、収集できるデータの量や種類はますます膨大になっています。

しかし、アスリートデータを収集する側のデバイスに比べて、そのデータを効果的に活用するためのソフトウェアはまだまだ発展途上であり、取り組みにおいても余地があります。

この中で、Morph は柔軟なデータ活用を可能にするツールであり、収集と活用のギャップを埋めるソフトウェアとして存分に効果を発揮できると考えています。

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